夢で見た情景のスケッチ
雪がしんしんと降るなかに、ひとつの小さな街があった。
街のはずれにはひとりの老婆がひとりで住んでいた。子どもたちは魔女とか呼んで、その老婆のところにいって、老婆をからかったりしていた。邪気のない子どもたちのやることだと思いながら、老婆はいつもたどたどしい足取りで子どもたちを追い回す。今日も街ではそんな情景を見ることができた。
ふと老婆は昔のことを思い出す。遠い遠い昔のことだ。
老婆にはかつて想いを寄せる少年がいた。少年はいつも本を読んでいた。ひとりの少女には、その姿がなんとも魅力的に映った。
少年は少女のことを知らなかったし、少女もまた、少年のことを遠くから見つめていただけだった。
少女は少年のことがもっと知りたかった。
しかし、少女は字が読めなかった。少女は本の話なんてわからなかった。字を学ぶ方法もわからなかった。
少女にとって少年はまったく別次元にいる人だった。だってあの人は字が読める。わたしは字が読めない。少女は、少年を眺めていたが、ただそれだけだった。
もし、彼に「ことばを教えて」と言っていたら。たった一言、それが言えていたら。
やがて隣の国と戦争が起きた。あの少年はどうなったろうか。本ばかり読んでいたあの少年は。
子供たちがまた、老婆をからかう。老婆は我に返り、また子供たちを追いはじめる。
老婆のしわくちゃになった心に灯った少女の淡い光はやがて子供たちの喧騒にかき消され、見えなくなっていった。
降り積もる雪。街はだんだんと小さくなっていく。白に飲み込まれていく。
そして、老婆も子供たちも、雪がすべてを包み込んで消え、辺りには白い世界だけが残り、
あの老婆の光はどこにいったのか、もう誰にもわからなかった。